宮城県角田市にある、曹洞宗・長泉寺です。いち早く環境ISOを取り入れ、環境活動を推進しています。

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仲秋の名月(平成28年9月14日)

DSC_1239.jpg    9月15日は仲秋の名月です。それにちなみ、名月を愛でる「寒山拾得」の掛け軸をかけました。この絵は、丸森町出身の斎藤弓弦先生の作、地元でも有名な画家の1人です。この作品は、東京におられた頃の作と思われ、丸森に帰ってきてからは画風が変わり、専門家からの評価が下がったと言われていますが、私にはそのへんのところはよくわかりません。ともあれ非常に穏やかな「寒山拾得」の絵で、私の好きな作品の1つです。※1


   さて、今年の夏は非常に暑い夏で毎日辟易していましたが、何か夏に1冊ぐらいは本を読みたいと思い手に取ったのが頼住光子先生の「正法眼蔵入門」という本です。角川ソフィア文庫の中に入っています。
   この本の中で私が一番感動したのは何かと言いますと、230ページから書かれてある文庫本のあとがきで、(それぞれに長い時間をかけて道元の文章と悪戦苦闘してきたことをうかがわせる学生たちのゼミの発表を聞きながら、道元の文章が実にさまざまな読みの可能性を含んでいることを改めて思い知らされた。私とは違う読み筋ながら、学生たちの読みはそれぞれに説得的で、道元の文章は、多様な読みを許容する、それどころか、多様な読みを触発することを目指して書かれたのかもしれないとさえ思った。学生たちの多様な道元の読みに接して、ふと私の頭をよぎったのは、「それぞれの読み筋は、その人の運命なのではないか」ということであった。本文でも書いたように、道元の文章は、私たちが潜在的に持っている認識の前提を切り崩してくる。そのような前提を取り払った時に見えてくるのは、その人をその人たらしめる核心、原質というべきものではないだろうか。仏教が説く「空」や「無我」によって、人は空っぽの抽象、スタティックな理想の境地を得るのではないだろう。「空」や「無我」という考え方は、人が世俗を生きる中で不可避的に身に着けてしまった思い込みや執着から人を解放する。常識という名の思い込みや執着に揺さぶりをかけてくる道元の文章を読むことで、人は自己の原質、つまり自己の運命に向き合うのだろう。その意味で、本書は、道元によって触発された私の運命の一端に触れたものと言っていいのかもしれない。)
   ここを読んで私がぐっと感ずることがありました。「それぞれの読み筋は、その人の運命ではないか」と言う一文を読んでハッとして呻ってしまいました。世間では縁を見つけるか見つけないか、縁とするか縁としないかはその人の実力であり、力量であるというような言い方をする方もいますが、頼住先生は読み方がいろいろなのはその人の力量によると言わないでその人の運命であると、こう言われたところにおっと感じたわけです。
   当然ながら、正法眼蔵とは道元禅師がご自身のお悟りの体験を書かれたものです。私たちは、私たちが体験したことを拠り所として道元禅師のお悟りの跡を読ませていただいているわけです。そこで、私たち一人一人が正法眼蔵を読むということを自己の修行とし、道元禅師の修行の跡をなぞろうとするわけです。日常、私たちは悟りの世界に入ったり出たりして生きている。その生きている環境の中で正法眼蔵を拝読するというのはまさにそれぞれの運命です。そのところを頼住先生に突かれて私は感動いたしました。

   さて、僧侶の中には、最終的には道元禅師の書かれた著述は坐禅をした者にしか分からないことだ、坐禅をしない人は頭だけで理解しているにすぎないというようなことを言われる方もいます。
   8月の末に縁があり、図らずも頼住先生は遥か東京大学からこの角田の長泉寺にお越しいただき、3時間ほどご講義を頂く縁をいただきましたが、坐禅をしなければわからないというお坊さん方もその中にはいたように思えます。しかし坐禅をしなければ解らないというようなお坊さんは意外に坐禅もしてないお坊さんだとも感じました。


   ともあれこの夏、暑い中にこの僅か2百数十頁の本ではありましたけれども拝読させて頂いたというのは貴重な夏を過ごさせていただいたなと感じております。正法眼蔵から生き方を学び、寒山拾得の境地で名月を愛でたいと願うばかりです。

   秋、涼しくなりましたお体ご自愛下さい。


   ※1・・・日本画家。宮城県(丸森町)生。本名は亀治。別号に灑山。小堀鞆音に師事し、土佐派を研究、数々の審査会で入選し、作品は東宮職・皇后職御用品ともなる。大正3年第8回文展で初入選し、その後も文展・帝展で活躍のかたわら、教科書の挿画も手がけた。戦後は地元に帰り、創作に励んだ。昭和49年(1974)歿、93才。



長泉寺住職

奥野 成


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